:基本情報・関連リンク
- 企画・製作:アマヤドリ
主催:合同会社プランプル
作・演出:広田淳一
舞台監督:橋本慶之
舞台美術:中村友美
音響:角張正雄
照明:三浦あさ子(賽【sai】)
衣裳:矢野裕子/五十嵐文果
演出助手:木村恵美子/犬養真奈/星洸佳/生駒元輝(イヂワル)
出演:笠井里美
松下仁
渡邉圭介
小角まや
榊菜津美
糸山和則
沼田星麻
中野智恵梨
中村早香(以上アマヤドリ)
宮崎雄真
足立拓海
石山慶
石本政晶
石井双葉
石井葉月
竹林佑介
廣塚金魚
升味加耀(劇団森)
添野豪(電動夏子安置システム)
谷畑聡(劇団AUN)
PANAY PAN JING-YA〈バナイ パン ジンヤ〉from台湾
Kim Dae Heung〈キム・デフン〉from韓国
- 劇団アマヤドリ
http://amayadori.sub.jp/
東京芸術劇場 シアターイースト
https://www.geigeki.jp/house/east.html
:演出家・俳優の方々の発言資料
- 作・演出:広田淳一
『悪い冗談』戯曲の前書き部分全文
http://hizablack.hyottoko.sub.jp/?eid=1074030
『月の剥がれる』インタヴュー(『悪い冗談』への言及あり)
http://amayadori.co.jp/hirota_speaking_extra1
:舞台美術
・おおまかには上図参照(初期配置)。舞台の床と客席最前とは高さが同じで、舞台を斜めに走る赤い帯は客席の下まで伸びている。上図ではそう見えないが、赤い帯は橋架とほぼ直角に交差している。橋架の高さは2m強で案外低い。横幅は、舞台幅一杯なので相当長い。1m弱の手摺がついている。檻の中には書物を置いた大きめの机があり、門田の独房に見立てている。
・また、橋の向こうで、天井から4〜5m下がったところに枠が吊り下げられていて、そこに蔦のようなものが水平にうねうねと絡み合っている。開場〜開演前には、この蔦もややライトアップされている。
・(0)〜(5)のあいだくらいまで橋に当たる照明は夕暮れのような斜光。下手天井から斜めに陽が当たっている感じ。ミルグラム実験以降は未確認。
・上手ベンチの上辺りや橋の奥などに、天井からかなり低いところまで(と言っても十分高いが)吊り下げられた傘付きの裸電球がいくつかある。これいつ点くんだろうと思っていたが、東京大空襲のシーンになって初めて点いた。
・上図のとおりほとんどの要素が客席に対して斜めに配置されているのだが、その余分なものを想起させない角度の清潔さ、美しさは特筆もの。
:上演中メモ
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(※※※出ハケのダイアグラム中心。殴り書きのメモ、上演台本、記憶のみからの書き起こし。観劇した回ごとの演出の変化は考慮せず)
- (0)開演前
・何かの空調のノイズのような淡い音響がずっと鳴っている。
・開場からすでに椅子に坐っている佐野、檻のなかに門田。佐野の上着が椅子の背もたれに掛かっている。しばらくするとBから青山がランニングウェア姿で出て来て、舞台奥センターで準備運動開始。
・やがてA→Dを市川と真野(劇中ではあり得ない組み合わせ)が喋りながら横切る。普通の声量で話しているので、客席のざわめきに紛れて内容はとくに聞き取れない。上演中には使わないバッグを持っている。
・開演約15分前、フードを被った青山、ランニングを開始。足音の耳に立たない、ささやかなペースで。Aへと消える。その後、B→C、A→Dのような動線で、舞台裏を回って別の入り口から現われて舞台を横切り、また別の出入り口へ消えて行くという動線で、サブリミナルのようにランニングする青山の姿が横切る。
・途中、加藤、桧山、多岐川、貝塚の四人が雑談しながらA→Dを横切る。普通の声量で話しているので、客席のざわめきに紛れて内容が聞き取れないのは、市川と真野のケースと同じ。客席最前と舞台の床がシームレスだということもあって、Aから出て来なかったら、単なる客が舞台を彷徨っているようにしか見えないだろう。実際、EとFから入って来る客もこの演出の一環のように見えて来る。
・基本B→C、A→Dだった青山の動線に、Bから出てきて、橋をくぐって舞台前まできてまた舞台奥にもどってAに消える、という曲線がまじってくる。或いは、Cから出てきて、橋の柱の間をジグザクに通ってDに消える、という動線も。
・開演約10分前。児玉ルイが一人ですたすたとA→Dへ横切る。
・開演約5分前。A→Dを多岐川と工藤が喋りながら横切る。相変わらず青山のランニング姿はサブリミナルに舞台を横切る(A→D、B→C)。
・開演約3分前。Fから栃木がコンビニの袋を持ってふらふらと現われる。橋の方をぼんやり眺めたり、客席の方をぼんやり眺めたり。ベンチに乗っている椅子を下ろしてから坐り、ポケットからチラシを出してそれを見る。しばらくしてそれをポケットに入れる。このあたりで開演アナウンス。「まもなく開演でございます……」。
・栃木、ベンチに乗っている椅子をすべて下ろして、ベンチを客席に対して水平になるように移動させる。そしてベンチにコンビニの袋を置いて、自分も坐る。このあたりで、橋架の裏のライトが明るくなり始め、佐野と門田がライトアップされていく。栃木はスマホで自撮りをしようとする。相変わらず青山はサブリミナルにランニング(A→D、B→C)。栃木、スマホいじったり、足を伸ばしてくつろいだり。客席に向かっているので佐野と門田は目に入らない位置。栃木欠伸をする。青山がA→Cへランニング。で、客席の照明暗くなる。淡いノイズのような音響も止む(これが演技開始の合図らしい)。
- (1)佐野×門田
・佐野の科白から対話スタート(「いい加減……しゃべったらどうなんです?」。椅子から立ち上がる)。同時並行で栃木はそのまま退屈そうにベンチに坐りつづけているし、青山はサブリミナルにランニングしつづけているし(B→Aなど)、そもそも刑務所の面会室の対話らしいのに(「だからってここに泊まるわけにもいかないんだからさ」)、赤い線を挟んで此岸/彼岸という距離をとっての尋常でないミザンス。
・対話の構図は、加害者VS被害者家族。人間の社会内における加害と被害の非対称性。殺人と死刑。字面を追っていくとしんどい対話だが、上述のように栃木も青山も舞台上にいるという状態なので、或る程度観客としてはがっつり彼らの会話に直面しなくてもいい。戯曲冒頭に置かれていることも含め、わりと観客を突き放している感じはある。
・佐野と門田の対話がヒートアップしている最中にも、青山は黙々とランニング。B→C、A→D、或いはBから出て来て橋をくぐって舞台前まできてまた舞台奥にもどってAに消えるみたいな動線も。門田の佐野のあいだを通過しているわけで、二つの時空間がブレて重なる。当然門田も佐野もあたかも青山が見えていないという前提で対話している。
・舞台をサブリミナルに横切る青山のランニングの足音は、意外と邪魔にならない。ときには、佐野と門田の科白の合間を巧く青山のランニングが縫って間を埋めることも(例えば「またそうやって黙る……」の後の間)。
・門田「僕はあなたの妹さんを殺しました」を立って言う。このあたりから空気が変わる。
・佐野「いじめ大好きー」「殺したい、あなたを」といった科白はドス黒い笑顔で。憎悪を笑顔で抑えているかのような。
・佐野「わかってますよ!」で瞬間的に最大のヴォルテージの感情の激発。素晴らしい迫力。
・栃木は二人の対話をまったく意に介さず、腋を掻いたりする。佐野と門田の対話が終わりかかるころ、栃木はまたポケットからチラシを取り出す。
・門田、「誰の、何を守ってるんですかこの法律は?」の科白で周囲の檻を示すような身振り。檻=法律みたいなアナロジー。
・佐野「あなたを殺す方法について」の科白で立ち上がって、上着を取ってCから退場。椅子をそのまま残して行く(この椅子はここから先ずっとここに放置されているが、意外と邪魔にならないっぽい)。門田はそのまま檻のなかに居つづける(ここから先ずっと)。音響が川岸の微細な自然音のようなものに変わる。
- (2)青山×栃木
・Eから出て来た青山を、チラシを手にした栃木がベンチから立ち上がって呼び止めて、二人の会話開始。会話しながら舞台奥へ移動。通り魔の話になってから、アンツィーがBから登場、上空に視線をやりながら橋の上を渡り、下手階段の真ん中あたりに腰を下ろして、ぼんやりする(橋の上に当たる照明は(0)からずっと変わらず)。
・会話が終って、青山はふたたびランニングでAから出て行く。栃木はゆっくりと上手ベンチへ歩いて戻る。
- (3)或る女
・青山と入れ替わりにケンケン女がAから出て来て、ゆるやかにけんけんぱをしてBへハケていく。サブリミナル・けんけんぱ。
・ケンケン女につづいて加藤と藤井がやはりけんけんぱをしながらAから出て来て、下手階段に坐っているアンツィーのところへ近付いて行く。橋下で動きを止めてから、語り開始。音響変化。音楽が鳴り始める。フォーク・アンビエント的な曲。
・加藤と藤井は「その日女は、ぶらぶら歩いて、隅田川へとたどり着く……」というふうに或る女性の行動と内心を散文的に、二人で分担して語っていくのだが、その女に見立てられてアンツィーが動く。その動きを加藤と藤井がトレースしたりする。
・このアンツィー/加藤/藤井のシーンの最中にも、青山はランニングして舞台をサブリミナルに横切る。C→Dへジグザグに橋の柱のあいだをうねっていったり。E→Fと客席の目の前を走っていったり。
・アンツィーは下手ベンチに飛び乗ったり、赤い帯に手を差し伸べたり。加藤と藤井は橋の柱に掴まって斜めに立つ姿勢になったり。この辺りの位置取りは語りの進行に合わせて細かく決まっている模様。
・やがてDからまたケンケン女が出て来て、けんけんぱしながら門田のいる牢獄のところを一周して、赤い帯=川の方へと向かう(このとき、門田はケンケン女に関心を向けているっぽい。とにかくこいつがずっと舞台上にいるってだけで始終隠微に不穏な感じが棚引く)。そして加藤の語りの最後の科白「その女の目の前を、川が流れて行く」のあとに、ケンケン女がけんけんぱの「ぱ」で赤い帯の上にそっと飛び乗る。音楽が大きくなって、音響変化。ケンケン女は赤い帯の上を手前から奥へと走って去って行き(Aへハケる)、加藤と藤井もそれにタイミングを合わせてすばやく位置を変える。
- (4)アンツィー/加藤/藤井
・加藤がアンツィーに呼び掛けるところから、アンツィーグループのさわりの部分がスタート。会話が開始してから、Bからもう田中が出て来る。栃木の方を見ている。
・このときにも青山のランニング姿、舞台を横切る。
・アンツィーに対する加藤のエセ英語の受け答えが面白い。「あはん?うふん?(Ah-ha Uh-huh)」「じょいなすじょいなす!(Join us)」。
・アンツィーを連れて行くという体でCへ三人とも退場。
- (5)同窓会グループ(栃木/田中/永井/桧山/真野/多岐川/俊好)
・ここからまた川岸の微細な自然音のような音響。
・すでに前のシーンで舞台にあらわれていた田中が上手ベンチに坐っている栃木に話し掛け、同窓会グループのシーン開始。次に、Aから永井、桧山が出て来て加わる。さらにCから真野、多岐川、俊好が出て来て加わる(真野はちゃぶ台を背負っている)。乾杯して、飲み会開始。
・この最中も青山はサブリミナル・ランニング。B→C、A→Bといった動線。
・やがて「このあたりって昔空襲があったんでしょ」的な話題が出る頃に、またケンケン女がけんけんぱをしながらAから現われる。わりとふらふらした動線で舞台奥を彷徨う。同じ頃、Bからランニングして出て来た青山は、ハケずに下手階段のところで立ち止まる。
・ケンケン女が舞台奥の赤い帯のところまでやってきて、けんけんぱの「ぱ」で帯の上に大きな音を立てて飛び乗る。音響変化。照明変化。桧山の「なんか嘘みたいですね、この、今の感じ見てると……」の科白を最後に、すぅーっと静かに立ち上がっていた同窓会グループの面々はAとEへ走り散って消える。同じタイミングでケンケン女はそれと逆方向に走ってDに消える。
- (6)ミルグラム実験(立花/青山/斉藤/児玉)
・青山はどこからか取り出した白衣に着替えて、下手階段を昇って橋の上へ。他の実験メンバーの斉藤、児玉、立花は二つの椅子を持ってBから現われて((5)の末尾に食い込むかたちで早目に登場)上手階段を昇って橋の上へ。ミルグラム実験の説明会話が開始。
・するとすぐにCから加藤と藤井が出て来て、下手前で宴会の準備をする。ビニールシートを広げて、ベンチの位置を変えて、新たに持って来た小テーブルと椅子を置いて。そして加藤と藤井はベンチに並んで腰掛ける。
・また、このシーンでは門田筋トレやってる。
・研究者の立花、ノリノリである。
・で、出題者と回答者を分けるくじびきをやる頃から、加藤と藤井が会話を開始。はじめは聞き取れないほどの声量だが、ミルグラム実験のシーンが終って(「奥の方のブースで準備していただいて……」で四人とも下手階段を降りてBへ退場)、照明が下手前に当たって来るタイミングで段々聞き取れるぐらいのボリュームになってくる。そしてシームレスに次の場面へ。
- (7)アンツィーグループ(加藤/藤井/アンツィー/市川/貝塚/松本/佐野)
・最初は加藤と藤井だけで話しているところに、Cからアンツィー、市川、貝塚、松本、佐野(通訳係・上着を着ている)があらわれて合流、宴会スタート。焼鳥食べたり唐揚げ食べたりビール飲んだりしながら。
・このシーンのあいだは、青山のランニング姿は現われない。(6)で一旦白衣を着ている状態になっているからか(おそらくは後に白衣を脱いでランニングウェアになる青山を印象付けるため)。
・アンツィーは途中で中国語でも喋る。
・アンツィーの祖母が日本語を喋れるという話題が出たときの藤井の「ほわーい?ほわーい?(Why? Why?)」のおとぼけな感じ、面白い。
・日本による統治時代、台湾の各種方言の話題から、みんなで能天気に「We Are The World」を歌う流れ。
・松本に始まる「花火あがんないなあ」「あがんないですね」というやりとりの前後で、Eからけんけん女がけんけんぱしながら出て来て、けんけんぱの「ぱ」で赤い帯の上に飛び乗る。そのとき大きく音を踏み鳴らす。音響変化。ピアノ主体のアンビエント曲。照明も変わる。花火の音響が轟く。アンツィーグループは全員ゆっくりと立ち上がり、ゆっくりと橋の向こうにまで歩いていって、客席に背を向けて立ち止まった状態から、全員で一斉にさぁーっと左右にハケる(ケンケン女は赤い帯の上にとどまっていて、ほかの全員と向きを揃えて客席に背を向け、タイミングを合わせてDへ走ってハケる)。音楽終わり。この退場のくだりは時間的に結構長い。
- (8)ミルグラム実験
・ふたたびBから実験メンバーが登場((7)のピアノ主体の曲が流れる頃からすでに現われている)、橋の上手の端に斉藤、橋の真ん中に児玉、青山(白衣)、立花というポジションで、実験を実施している途中からという体でシーンスタート。出題者の児玉はレバーのついた椅子に客席側を向いて坐っている。児玉と青山には四角い照明が正面から当たって、舞台奥の壁にシルエットが映っている。
・ここでまた門田は筋トレ。
・児玉の「次の問題です。『空襲──東京、ベルリン、重慶、ロンドン』回答を」の科白の頃から、不気味なアンビエント・ミュージックが流れる。
・斉藤がサクラだったことをばらしてから、照明が普通に戻る。音楽終わる。
・児玉の「だってあなたがやれって言ったんじゃないですか!」の科白でシーン終わり。児玉、斉藤、立花は椅子を持って上手階段へ(児玉はそのまま退場)、青山は一人で下手階段へ。
- (9)青山
・青山、下手階段を降りながら白衣を脱ぎつつ(ランニングウェアの姿に戻る)、独白。「上司の命令であれば、たとえ良心に背くことでもちゃんと従う。正しいよ。組織人としてはとても健全だ。(健全に機能する組織にはいつでも不健全な人間が存在する)」みたいな上演台本にはない科白が追加されている。
- (10)ミルグラム実験
・上手階段を降りた斉藤と立花は牢獄の前のあたり、舞台中央の橋の下あたりに坐ってたむろっている。そこから橋の下を通って下手側から近付いた青山が「お疲れさまでした」と言ってシーン開始。
・このシーンの途中でもうBから村田が現われて上手階段を昇って橋の上を彷徨いはじめる。手にチラシを持っている。
・青山、白衣を立花に渡す。
・研究所を辞めることを告げた青山、斉藤と立花に背を向けて、フードを被り、ランニング再開(Cへハケる)。
・斉藤と立花、椅子を片付けてBへ退場。
- (11)村田×工藤
・(10)のシーンが終るやいなや工藤が村田を驚かすように声を掛けて、橋の上でシーン開始。音響が川岸の微細な自然音のようなものに変わる。
・門田は床に座り込んで腕を組んで寝ている。
・このシーンの最中にはまた青山のランニング姿がサブリミナル的に現われる。B→C、A→B、A→Dといった動線。
・工藤が「どうですか」と言ったあたりから、舞台奥、AからBへと綱渡りをするようなそろそろした足取りで、桧山、中村、加藤、ケンケン女が横切っていく。かなり進みはゆっくり。で、工藤の「気持悪い」の科白あたりで、照明変化、音響変化。かなり暗くなって、舞台奥のフットライトが点き、かすかにフォーク・アンビエントな曲が流れる。そして村田×工藤の「泣いてるの?」「泣いてないよ!」のやりとりを引き継ぐかたちで、「カラスの!」「子供たちの!」「私たちの!」「泣き声!」みたいなポエムを四人で回していく。サブリミナル・謎ポエム。このとき、青山のランニング姿も横切る。
・ケンケン女がBからハケてから、曲が小さくなり、音響が川岸の自然音に戻り、照明もゆっくりと戻る。明るくなる。村田×工藤のシーンのつづきはケンケン女がハケる前からもう始まっている。
・村田と工藤の対話がつづくが、キャリアの話になったあたりから、缶ビールを片手に真野がDから出て来てなんとなく橋の上の二人を見上げる。さらに永井も出て来る。どうやら真野は橋の上の二人が痴話喧嘩をしていることを理解したらしく、ニヤニヤしはじめる。
・俊好、多岐川など他の同窓会グループのメンバーもDから出て来て、橋の上の二人の対話を気に掛けつつ、同時進行で静かに(5)の飲み会のつづきをしはじめる。
・「そのつまりはだから、一緒に来ることもまた不可能ではない!……」の村田のプロポーズに近い科白に対して、それを見物していた同窓会グループのメンバーが下からまばらな拍手を送るが、村田は「うるさい!」と一喝。二つのシーンが密に交差する瞬間。
・村田の一喝のあたりで、栃木も桧山もDから出て来て、同窓会グループ全員揃う。
・村田の「あがんねーなーしかし!」の科白のあと、シーンの焦点が同窓会グループの方へ移る(「(コップ)足りてる?」みたいな科白がアドリブで入る)。村田と工藤はしばらく橋の上にいるが、やがてゆっくりと上手階段へ退避(そこで坐って待機)。
- (12)同窓会グループ
・(5)のつづき。「ぶっちゃけ日本人うざいですか?」。剣呑な話題が出るが、結局は日本も韓国もお互いさまだもの、日本人も韓国人も同じ人間だもの、みたいなヌルい空気に落ち着く。あとは、太平洋戦争中に使っていた軍艦の話題がチラッと出るのが、(14)へのちょっとした伏線。
・会話がつづいているあいだにも、青山はランニングをして黙々と舞台を横切る。A→D、B→C、F→Eといった動線。
- (13)同窓会グループ+アンツィーグループ
・同窓会グループが会話をつづけている途中で、Cからアンツィーグループのメンバーが出て来て、(7)のつづきの宴会を開始。しばらく並行して進んでいるが、アンツィーグループのメンバーが一休さんのテーマ(「好き好き好き好き 好き好き 愛してる」)を口を揃えて歌って大はしゃぎするところで、同窓会グループのメンバーもちょっと隣りのグループのことを気に掛ける。とくに多岐川が気に掛ける。
・貝塚の色恋話から松本が滝廉太郎の「花」を歌う流れ。そこから松本をからかいつつ(途中で松本が歌詞を改変して「愛」の言葉を入れたのでさらに大盛り上がり)、下手のアンツィーグループ全員で声を合わせて歌いはじめ、さらに、それを気に掛け始めた上手の同窓会グループのメンバーに対して、アンツィーが「一緒に、一緒に!」と呼び掛けることで、そしてそれに乗って多岐川が率先してほかの同窓会メンバーを焚き付けることで、手拍子も上がりつつ、その場にいる全員が立ち交じって「花」を唱和し出す。加藤が「すみませんー(くだらないことに参加してもらっちゃって)」みたいに愛想笑い。藤井が面白い身振りで指揮をする。合間に永井が「はい、はい!」とノリノリで合いの手を入れる。さらに村田と工藤も橋から降りて来て唱和に加わる。このあいだにも青山はランニングで横切る(F→E)。二番からはコーラス部分はちゃんと丁寧にハモり、手拍子はもう止める。これまでの花見のシーンに通底していた「人類みな兄弟」みたいなヌルい和気藹々とした空気が、ここでピークに達する。
・唱和の途中でケンケン女がAから出て来て、けんけんぱをしながら舞台を斜めに横切って舞台最前の上手端へ向かう。それと同時進行で、「花」を唱和している同窓会グループ、アンツィーグループのメンバーは指揮をしながらAの方へ移動する藤井に導かれるように、均等に距離を取って斜めに整列。ケンケン女も上手端に到達したら、全員と向きを揃えて整列に加わる。和気藹々とした空気にぴりっと一筋の緊張が通る感じ。
・このとき、青山のランニングする姿も舞台に現われているが、もう別の入り口へ退場するということをせずに舞台の上をずっとランニングしつづける。
・歌が終ってから、ケンケン女と青山(と門田)を残して全員綺麗に散ってハケる。
- (14)東京大空襲
・(13)で醸成された空気がガラッと変わる。
・照明暗くなり、上手前のケンケン女にのみスポットライトが当たる。加えて、舞台側面に並んでいたサイドスポットライトが点く。
・音響、ダークなアンビエント曲に変化。ランニングする青山の足音がまるでその曲のビートのように重なる。青山は舞台上を8の字のような軌道でランニングしつづける。
・ケンケン女による、東京大空襲に関するリーディング(言葉はおそらく戦時中の回想記や資料からの引用)。その途中で、Aから現われた貝塚が奇妙なステップをしながら「ちょちょーんちょん! マッチ一本火事のもとー!……」ということを大声で言いつつ舞台奥を横切る。謎。この演出は、ケンケン女の「前方に炎が広がり、東京の目標区域が火炎地獄と化していた」の科白の直後/「焼夷弾は、地面に当たった瞬間に沢山のマッチを一度に擦ったように見え、……」の科白の直前に挿入されるのだが、考えるに、その「沢山のマッチを一度に擦ったように見える」「火炎地獄」が広がっていることを、詩的かつ身体-運動的に表現しようとしたものか。映像的には直に空襲の様を見せられない(見せようとしても限界がある)ことを逆手に取った演劇ならではの表現方法? でもそれを「ちょちょーんちょん!」というコミカルな科白&声で行うというのが狂ってるわ。いやー深刻にしかなりようのないシーンの中のこのコミカルなセンス素晴らしい。
・貝塚がBへハケる前に、Cから多岐川が現われてゆっくりと歩いて下手階段の前に立つ。
・ケンケン女の「はるばる運んで来た荷物を、一辺にぶちまけた!」の科白で門田がドン!と椅子から転げ落ちる騒音を立て(毎回このタイミングでやっている)、そこからリーディングが多岐川へバトンタッチ。「さて、その言問橋ですよ……」。音響も変わる。音楽にピアノ音が混じる。このとき、青山のランニングの軌道は楕円に変わり、スライドは大きくなって走るスピードはかなり速くなっている。
・このあたりで、天井から吊り下げられていてずっと使われていなかった裸電球が点る。橋を囲むように配置されている。
・多岐川、「B29の爆音」の言葉を立てる。
・多岐川のリーディングのあいだに栃木がBから出て来て橋の上の上手側に立つ。途中でリーディングを栃木にバトンタッチ。上空を眺めるようにしながら栃木が語っているあいだに、多岐川はゆっくり下手階段を昇って、橋の上へ。
・橋の上で、交互にリーディングしながら多岐川と栃木は左右から近付いていく。その途中で、Eから藤井、Bから加藤が出て来て、橋の上へ。橋の両端に待機。
・青山がランニングを止めて、舞台奥で荒い息をついて立ち尽くす。橋の上で多岐川と栃木のリーディングが終ると、走って位置を入れ替えて、橋の上から客席の方を向いた加藤と藤井のリーディング開始。照明も若干変わる。多岐川と栃木はそのまますぐに階段を降りてハケる。
・で、加藤の語りの途中から、それまで立って止まっていたケンケン女が移動開始。けんけんぱをしながら、舞台奥へ向かっていき、その奥から赤い帯に沿ってまた舞台前までやってくる。そして舞台最前までやって来ても、けんけんぱは止めずに、45度ずつ身体の向きを変えながらけんけんぱをやりつづける。
・青山、フードを外して再び走り出す。
・加藤と藤井のリーディングがつづいているあいだに、ケンケン女のけんけんぱのリズムに完全にシンクロしつつ、登場人物がけんけんぱをしながらA、B、C、D、E、Fから一人一人現われる。全員ゆっくりと赤い帯を目指して、そこに整列し、その上に乗ってからもケンケン女と向きを合わせて45度ずつのけんけんぱでの旋回をつづける。人がどんどん集まってくるのと、藤井と加藤のリーディングの感情が昂っていくのとが、総体的なクレッシェンドのように同調する。照明も少しずつ変化していき、天井の蔦に赤い照明が当たる。また床の赤い帯にもそれが目立つように上から赤い照明が当たっている。点っていた裸電球はみな消える。
・リーディング中、父親の「川へ飛び込め!」の科白のみ永井が担当。
・ここでも見立ての効果があって、この俳優全員が集まった上で向きを揃えてけんけんぱをするという動きは川で溺れている人の群れにも見えるし、空襲する爆撃機の編隊のようにも見える。が、実際にはそんな寓意とは無縁にこの動き自体がヘンな強度を帯びている。
・加藤と藤井のリーディングが終わると、全員のけんけんぱの足音が段々大きくなっていき、最高潮に達しようとするところで、ぴたっと止まる。このとき全員の向きは客席に背を向けるかたち。音響も止まる。だが、青山一人はランニングしつづけて動いている。
・ケンケン女が(客席に背を向けたまま)科白を言い──「この任務で、君の部下たちはどんなことでもやってのける度胸があることを証明した。おめでとう!」──、全員が散ってハケる。貝塚だけは上手階段から橋の上へ。
- (15)加藤/藤井/貝塚/桧山/ケンケン女
・橋の上で、けんけんぱする貝塚(ケンケン女2)に加藤と藤井(中年女性二人)が話し掛けるという謎のシーン。加藤の「良かった!」の科白の後に音響変化。花火の音が轟き、ボーカルの入った穏やかな音楽が掛かる。
・ケンケン女は綱渡りをするようなそろそろした足取りで赤い帯の上を手前から奥へ移動。
・短い謎シーンを終えて貝塚、加藤、藤井は下手階段を降りる(貝塚はCから退場)。同時進行で、Eから桧山が出て来て、やはり綱渡りをするようなそろそろした足取りで舞台最前を横切り、それに加藤と藤井が同じく綱渡りの足取りであとにつづく。そして(11)のときのくり返しで、ケンケン女も合わせ「カラスの!」「子供たちの!」「私たちの!」「泣き声!」のポエム回しを四人で行う。
・このとき、アンツィーがEから出て来て橋の上を渡り、Bへ消える。(2)のときの動きのリフレイン。
・ポエム回しが終ったあと、舞台奥まで到達していたケンケン女は客席の方を向いて、空襲被害の報告の科白。語られている内容は悲惨だが背後の音楽とのミスマッチが面白い。桧山、藤井、加藤はそのままFへハケる。ケンケン女も科白を言い終わってから、変なステップでBへ向かって退場。同じ頃、Cから佐野が出て来て椅子に坐る。
・青山はこのときずっとランニングして舞台から消えない。そしてケンケン女が報告する前後では、短いインターバルでダッシュをくり返して舞台上を往復している。
- (16)青山
・音楽止む。ダッシュを止めて上手ベンチに坐る青山。しばらく荒い息をついている。照明変化。そして独白。
- (17)佐野×門田、青山
・青山の独白に食い込むように門田が話しはじめて、佐野と門田の対話開始。二人の頭上のライトが急速に明るくなる。対話の主題は「赦し」、「(報復)感情・記憶からの自由/不自由」。
・佐野、「そうだよ、めちゃくちゃだよ。あんたのお陰でね!」でヴォルテージを一挙に上げる。
・佐野の「赦そうとしても赦せない……」みたいな科白の頃から、アンビエントでノイジーな音響が流れ始める。
・「もう来ません」と言って佐野が門田を置いてCから去って行くと、青山の独白再開。途中からベンチを立って、舞台奥に向かって歩きながら独白。そして舞台奥で上手の方を向いて立つ。それから、もはや佐野の居ない空白に向かって、奇妙に訴え掛けるように門田の最後の科白が放たれる(「僕はそういう動物です。だから僕は、そのようにして生きていきます」──これは青山の独白を門田が分担したような印象も)。青山はフードをかぶる。このタイミングで栃木がコンビニの袋を持ってFから出てくる。青山はランニングしてBへハケる。音響どんどん大きくなっていく。
- (18)世界の国からこんにちは
・栃木がコンビニの袋をベンチの上に置くタイミングで、音響が止む。それからBから出て来た田中が、上手ベンチの栃木に話し掛けて、(5)のシーンが再現される、かと思いきや、突然「世界の国からこんにちは」が流れ始め、照明変化。すると同窓会グループ、アンツィーグループ、村田×工藤、ケンケン女の面々がわちゃわちゃ出て来て、しばらく宴会のつづきみたいなことをしてから、ベンチ、椅子、ビニールシート、その他の小道具をすべて片付けていく。
・全員が居なくなってから、門田も檻から出て、爬虫類みたいなキモい動きで橋の下を移動してCへ退場。
・「世界の国からこんにちは」が終わりかかる頃に、Bから加藤と藤井が出て来て橋の上の上手側に立つ。客席の方をぼんやり向いて立つ(「その日、女は隅田川に辿りつく」の科白を言い終わるまでこの体勢)。
- (19)或る女〜群舞
・照明は下手奥から赤い帯の周囲を末広がりに照らし出すもののみになる。スモークが炊かれる。
・加藤、藤井の「その日、女は隅田川に辿りつく……」の語りの進行とともに、Aから出て来たアンツィーがゆっくりした振り付けの動作で赤い帯の上を歩いて行く。加藤と藤井の視線はアンツィーに固定され、アンツィーが動くにつれて動く。アンツィーの動きは、指先まで何かに操られているかのような、波や木の葉のそよぎに似た自然物の動きをスローモーションにしたかのような、悠揚せまらない動き。種まきの動きや、水を掬い上げて飲む動きも。橋をくぐってから(アンツィーが舞台前に来ると徐々に正面からも照明が当たる)、下手階段をゆっくり昇って、赤い帯を見下ろすポジションに立つ。そのあいだも或る女性の行動と内心を三人称的に散文で語っていく加藤と藤井の語りはつづく(藤井、「空襲」という言葉を立てる)。
・この空襲後の廃墟の美しさを語るシーンの意義については、知人のツイートが簡にして要を得ていたので引用する。「ろくじ@rokuji:悪がなされて、そこに例えようもない美しさがあらわれて、「美しい」と認めることがまるで悪の肯定のように思えたとしても、思ってしまったのなら、繰り返しその美しさに対峙する他に道はない。そこに共有しえない、それぞれの美しいものを抱えた誰かがいるのなら、それはとても素晴らしいことだ。」(http://twitter.com/rokuji/status/582258066411794432)
・最後、加藤と藤井の語りが終ってから(「……その女の目の前を、川が流れていく」)、アンツィーが少し中国語で短い言葉を発し、照明変化。ほぼ真っ暗になり、赤い帯が蛍光して、その上に赤い照明が一筋当たる印象的な照明デザイン。加藤と藤井は上手階段を降りて、藤井のみが発光している赤い帯の上を舞台奥から前へと渡っていき、橋をくぐって、上手最前まで来る。
・そして先行する藤井の動きをペースメーカーとして、群舞開始。